制限酵素の遺伝子に変異を与えて基質特異性を改変しようという試みをずっと続けてきたが、結局成功しなかった。EcoRIとそのメチラーゼ両方の遺伝子を大腸菌内で発現するのだが、EcoRI遺伝子が変異して基質特異性が変化したとしてもメチラーゼがそれに対応して変化しなければ、宿主のDNAが分解されてしまう。この問題を突破すべくベクターや宿主を検討してきたが、成功に至らなかった。現在、バキュロウイルスをベクターとした系を蛋白工学研究所などと検討している。この系を用いると、変異制限酵素が大量に生産できると予想されている。また、HindIIIについても同様な研究を展開しつつある。 HindIII遺伝子の単離の際に、この酵素に2つの存在様式があることが発見された。ホスホセルロースカラムから高濃度のKClで溶出してくるP2という分画は、活性が高くDNAとの結合能も高い。P2はファージT7を少量加えると増加するが、T7量が多いと消滅する。何らかの因子がHindIIIと結合してP2を形成し、これがファージからの防御に役割を果たしていると思える。HindIIIの2つの様式は生化学的にも調節しうる。抽出液にマルトースのような二糖類(それ自身はHindIIIの阻害剤となる)を加えるとP2量が増加する。抽出液に尿素を加えると興味深い知見を得た。2M尿素を加えるとホスホセルロースで巾広い1本の活性ピークを得た。この程度の変性では他の蛋白質が非特異的に結合するからだと考えている。ところが4M尿素処理だと1本の鋭いピークを得る。他の蛋白質が結合できないほどの尿素濃度なのでHindIIIはフリーになっている。これらの事実からHindIIIは1種しか存在せず、前述の因子が結合することにより安定な酵素として存在するようである。現在この因子を探索中である。
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