これまでに数多くの糖鎖を認識するモノクローナル抗体が作製されてきたが、細胞の分化や癌化によって新たに発現する形質を識別できる抗体を得るのは容易なことではない。そこで、特に糖タンパク質糖鎖に対する抗体について、これまでに申請者が行ってきた単クローン抗体の作製法の重要な二点、すなわち免疫法と抗原の固相化を工夫改良して、目的とする糖鎖を認識するモノクローナル抗体を効率よく作製しようと試みるものである。免疫法に関して免疫寛容法を、抗原の固相化にはビオチン化糖ペプチドのニトロセルロース膜への吸着法を、導入した。 シクロホスファミドを、抗原細胞として(神経細胞のニューロンへの分化について広く研究がなされて、数多くの変異株が分離されている好クロム性細胞腫由来のPC12)細胞を実験材料として用いた。シクロホスファミドと共に細胞をマウスに投与することによって、マウスを投与細胞に対し免疫寛容化するには成功した。そこで免疫寛容化マウスにNGFによってニューロンを形成させたPC12細胞、あるいはPC12D細胞を単独投与して新たに発現される可能性のある抗原に対しての抗体産生を促し、ミエローマ細胞との融合によってモノクローナル抗体を作製し、スクリーニングした。しかし、目的とする抗体を得ることができなかった。現在その原因を追求している。この研究の過程で、PC12細胞のニューロンへの分化と、PC12D細胞の変異に関して重要な知見を得ることが出来た。すなわち、PC12細胞のニューロンへ分化する過程で、細胞表面の糖蛋白質糖鎖のポリラクトサミンが減少すること、またNGFによって短時間でニューロンを形成するPC12D細胞ではポリラクトサミン含量が著しく低くなっていることを明らかにすることができた。今後、糖鎖の非還元末端にラクトサミンの繰り返し構造を持つ糖鎖の構造を明らかにし、またこの糖鎖の神経分化に関わる役割を追求するために、免疫寛容化を利用して抗体を作製しようと考えている。
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