研究概要 |
熱帯湿潤地域と温帯湿潤地域の扇状地の分布と規模に対する気候条件の関与の度合を求めることを目的とした。対象地域は,熱帯湿潤地域のフィリピン諸島,温帯湿潤地域の台湾島・日本列島である。比較のため亜寒帯の南千島とポーランドも取り上げた。 面積2km^2以上の扇状地をもつ河川は,フィリピン諸島に129,台湾島に71,日本列島に490,南千島に2,ポーランドに66あった。集水域面積200km^2以上の流域で扇状地をもつ流域の割合は,フィリピン諸島で9.4%,台湾島で70.4%,日本列島で24.5%,ポーランドで20.0%であった。扇状地をもつ割合の高い集水域規模は,フィリピン諸島で268〜420km^2,台湾島で630km^2前後,日本列島で500km^2前後であった。台湾島・日本列島にくらべ,フィリピン諸島で扇状地にとっての集水域の適性規模が小さいことについて,熱帯湿潤地域では,大集水域では細粒物質の供給量が多く,扇状地ができにくいなどの理由が考えられる。 フィリピン・台湾・日本において,集水域面積200km^2以上の470流域を対象に,判別分析法で扇状地の存否に対する5因子の関与の度合を求めた。扇状地の存在に有利な条件は,気候条件が台湾や中央・北日本,起伏比が63.1〓以上,堆積場が平野・盆地域であった。不利な条件は,気候条件がフィリピン東部や西日本,堆積場が外海域,起伏比が25.1〓以下であった。フィリピン・台湾・日本いずれも,山地の発達段階が,中期前半から中期後半へと,さらに後期へと進むにつれ,大きな扇状地が発達する。その中期後半〜後期の山地の山麓で平野域にできた扇状地を対象に,集水域面積と扇面面積との関係式を求めた。同規模の集水域における扇面面積は,日本にくらべ,フィリピンでは10〜20%大きく,台湾では20〜60%も大きい。フィリピンでは,熱帯の粗粒物質の生産が少なく,温帯の台湾より扇状地は小さいが,日本より降水量が多く,大きな扇状地を発達させると考えられる。
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