高度好塩性古細菌であるHalobacterium halobiumは3M以上のNaCl溶液中でのみ生存可能な、細胞内に飽和に近いカリウムイオンをふくむ含んでいる。こうした特殊な環境に生育する本菌の転写機構は、ほかの生物にない特性をもっている可能性がある。このことから本菌の転写機構の中心的酵素であるRNA polymerase(RPase)を精製しその性質を明らかにすることを試みた。H.halobiumの破砕菌体から調整したS100画分polyethyleneimine(PEI)を加え未吸着成分内に少なくとも低塩濃度で最大活性を示すRPase(RPase H)と高塩濃度で最大活性を示すRPase(RPase L)の2種の酵素が存在することが確認された。このうちRPase LはButyl Toyopearl、Heparin agaroseを用いたcoumn chromatographyとglycerol密度勾配超遠心分離法を行うことで約1076倍まで精製することができた。この酵素標品は3M NaCl濃度で1本鎖および2本鎖DNAを鋳型として最大活性を示した。このRNA合成活性は40℃で反応させると90分まで直線的に進行した。本酵素はrifampicin、α-amanitinに不感受性であったが、インフルエンザウイルスのRNA polymeraseの阻害剤であるligninに対し感受性を示した。本酵素の分子量はglycerol密度勾配超遠心分離法から約45kDaと算定されたが、部分精製酵素標品のSDS-PAGEの結果から本酵素を構成するsubunitを同定できなかった。PEI処理3M KCI溶出画分から同様の方法でRPase Lと性質が類似した高塩濃度で機能するRNA polymeraseを精製したが、RPase Lと同じ酵素であるか否かは不明である。また、これらの部分精製酵素標品は非常に不安定であるため、酵素活性を安定化させる因子の検索を試みたところ、PEI処理後3K KCI抽出画分内のhydroxy apatite吸着成分の中に安定性に寄与すると思われる成分が含まれていた。
|