研究概要 |
酵母(Saccharomyces cerevisiae AKU4100,酒酵母7号)の生育に及ぼす圧力とエタノールの影響を調べた.圧力とエタノールはともに酵母の生育に対して負の効果がある.したがって,培地中のエタノール濃度が増加すると酵母の生育は次第に抑制される.しかし,両者が共存する系,たとえば,エタノールを含む培地の酵母に20〜30MPaの圧力を加えると,エタノールの影響は低下し生存率が増加する傾向が観察された.すなわち,エタノールを麻酔薬とみなすと,麻酔の圧拮抗現象がこの場合も起こっていることになる.この結果の応用の一つとして,高圧力下で酵母によるグルコースのアルコール発酵を試みた.常圧で,発酵途中とほぼ発酵が終了した酵母懸濁液を20MPaまで加圧して酵母の生菌数とエタノール濃度を測定したところ,生菌数は加圧により増加したものの常圧発酵で得られるよりも高濃度のアルコールを得ることはできなかった.発生した二酸化炭素の除去も含め,高圧発酵の最適条件をさらに探る必要がある.酵母に圧力やエタノールに対する耐性を付与するため,酵母を熱ショック処理して圧力耐性(100MPa,1時間)と熱耐性(51℃,10分)を調べた.酵母に熱ショックを加えることにより圧耐性と熱耐性は増加したが,培地にエタノールを加えると,熱ショック酵母の方が熱処理しない酵母よりも生存率が急激に低下する現象が見いだされた.S.cerevisiaeの方が酒酵母7号よりも種々のストレスに対する耐性は弱かった。
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