1.初級教科書の多くが不自然な日本語を掲げ続けることの根本的原因は、日本語教師を含む母語話者に根強い「外国人はわれわれとは違った日本語を話すべきだ」という意識にあるということが、教授法受講者の意識調査などからうかがえる。 2.この意識から出発する日本語教科書は、具体的には次の特徴をもつ。 (1)話しことばは書きことばより略式のものであるから、教えるべきでない、という基本姿勢をもつ。 (2)書きことばの文法に照らして正しい形を教えることが最重視され、その形を使用する際の言語外の諸条件(話し手と聞き手との関係、場のあらたまりの度合い等)との関係は十分に考慮されない。 3.コミュニケーション力を養成するには、現行の多くの教科書のような規範的なアプローチは不適当で、母語話者の日本語を忠実に記述する教科書が必要である。そして、記述的なアプローチの教科書は、 (1)話しことばと書きことばは異なるもので、さらにそれぞれが多くの下位分類をもつが、それぞれが等しく日本語の1変異としての地位をもつものと認められるべきである。 (2)文法的知識に加えて、形式の使用に関する知識も重視する必要がある。 4.本研究で作成する初級教科書では、 (1)話しことばのみ、さらに、大人の日常生活で使われる日本語を導入レジスターとして選択する。 (2)言語形式について、従来の教科書で重視されてきた文法規則に加えて、それが伝える発話意図との関係も理解させるべく、それに必要な情報を与える。
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