本研究は、人間の主観的輪郭の生成機構を解明するために「空間フィルタによる領域識別の基礎研究」及び「多重解像型空間フィルタによる輪郭情報の復元」の2つのアプローチを取った。前者は、知覚対象となる2次元平面上の図形の局所的特徴を抽出することなく、領域の識別によって主観的輪郭を取り扱おうとするもので生理学的に妥当な計算機構構築に必要不可欠な基礎的研究である。具体的にはある空間周波数を持つ格子パターンに選択的に反応する受容野を構成し領域とその輪郭の識別に関する実験を行なった。 他方、後者は局所的特徴を抽出しそれらに幾何学的に予盾しない輪郭情報を復元しようとする研究である。従来、このようなアプローチにおいて「2次元平面上の図形に対して複数の方位選択型空間フィルタをマルチスケールで畳み込み積分する必要」がありそのシミュレーションには莫大な計算量を必要とする。本研究は、等方性を持ったガウスフィルタで画像をぼかして得られる多値画像データの幾何構造を解析することで、方位選択型空間フィルタを用いた場合とほぼ等価な結果を2回の畳み込み積分で実行できる方法を構築した。これによって非常に複雑な受容野モデルでも圧倒的に少ない計算量でシミュレートできるようになり大きな進歩をえた。次段階において、代表者らはこの機構を用いて「各パターンの微細な特徴を抽出するマルチスケールな計算機構」を構成し、この出力を「多量スケールの空間荷重を持った処理機構」で統合することで主観的輪郭生成機構の新しいモデルを構築できた。このモデルは従来のものとは大きく異なり、曲率などの幾何学的特性も完全に再現する優れたモデルとなっている。現在、この結果の発表を準備している。
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