1.ポンゾ錯視に関する実験を実施した。方法は以下の通りである。すなわち、アカゲザルとチンパンジーに水平線分(標的線分)の長さがある定められた値より長いか短いかを報告するよう訓練した後、刺激条件を系統的に操作した図形をテスト試行として提示して、長い・短いという報告の割合の変化を調べることにより、過大視・過小視を測定した。一連の刺激操作により得られた知見を以下に述べる。(1)収斂する文脈刺激と標的線分の上下の位置関係を変化させると、文脈刺激の形態によらず、収斂点と標的線分の距離が近いときに、一般的に線分長の過大視が生じることが明らかにかった。すなわち、ポンゾ錯視が見られた。(2)文脈刺激の奥行き感を操作すると、奥行き感の強さによる過大視の増加は見られなかった。(3)文脈刺激と標的線分の間の空隙の大きさを操作すると、空隙が小さいとき過大視が生じたが、錯視量の変化は、空隙の大きさだけでは説明できなかった。実験は現在も継続中であり、それらの結果をふまえて、霊長類におけるポンゾ錯視の規定因、及びそのヒトとの差異を明らかにしたい。 2.視覚探索に関する実験をニホンザルを対象にしておこない、次のような知見を得た。(1)充実した縦棒図形と斜め棒図形のおのおのを標的、他方を妨害刺激として視覚探索をおこなわせると、ヒトと同じように縦棒図形を標的にしたときの反応時間が長くなり、探索非対称性が存在することが明らかにされた。(2)棒の傾きと棒の充実・中抜きの2条件のAND結合のみが標的刺激を特定する条件では反応時間が長くなり、ヒトと同じような結合探索効果が見られた。この実験も継続中であり、それらの結果に基づいて、ヒトとの視覚探索遂行の違いを明らかにし、初期視覚情報処理の系統発生を検討したい。
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