研究概要 |
今年度は本研究の初年度にあたり,コピュラ文と知識使用についての基礎的事実の整理に重点を置きつつ,かつ従来からの研究の展開を行なった。コピュラ文の意味解釈については,すでに、少なくとも同定文,記述文,同一性命題に分けねばならないという知見を得ている。その知見の延長上に,今年度は,特にプロトタイプ意味論との関連で,トートロジー解釈のメカニズムを明らかにした。プロトタイプ意味論では、アリストテレス以来の古典的カテゴリー論とは異なり、自然言語のカテゴリーは必要十分条件により決定される集合論的対象ではなく,カテゴリーの代表的メンバーとの全体的類似によって決定される,非集合論的対象とされる。こうしたカテゴリーには,集合論的カテゴリーと異なる特徴がいくつかある。トートロジーとの関連では、特に重要なのは、同一カテゴリーに属すメンバー間に所属度の差が見られること,およびカテゴリーの境界が不安定であり,マージナルなメンバーは,ある視点からは,カテゴリーから排除されることである。トートロジー「AはAだ」は,意味論的には無内容な言明とされながらも,実際の使用では,使用状況で仮定されている命題との関連で,さまざまな解釈を生み出す。大きく分けると,カテゴリーを縮小して,マージナルなメンバーを除外しようとする試みの拒否と,同一カテゴリーに属するため,ある種の類似をもつメンバー間に,類似にもかかわらず存在する差異を強調する,2つの用法がある。こうした用法はさらに細分化できる。そうしたさまざまな用法を生み出す使用状況での暗黙の仮定を分析し,プロトタイプ理論による基礎づけを行ない,かつコピュラ文の用法との関連で,トートロジー解状の全体的枠組みを構築した。
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