本研究は文法獲得の過程を詳細に調査することによって、普遍文法と経験の相互作用の実態を明らかにしようとするものである。本研究では、特に日本語文法獲得初期を集中的に調査した。具体的には、3・4歳児を被験者とし、語順と格助詞に着目した実験を行ない、基本的句構造の獲得状況を調査した。その結果判明した点を以下に列挙する。 (1)主語・目的語・動詞という他助詞構文の基本語順および表面的にはその基本語順を交替させるかきまぜ(scrambling)の操作は3・4歳児の文法にすでに組み込まれている。かきまぜが関与した文の理解について、5・6歳児でも困難が伴うことがあるという結果の実験報告がこれまでに数多くなされてきたが、それは実験の方法に問題がある。 (2)3・4歳時で、基本語順をとる他動詞文およびかきまぜを伴った他動詞文について、単に表面での線的関係としての語順が理解されているだけでなく、抽象的な(要素の)階層関係を含む句構造を伴ったものとして理解されている。 (3)3・4歳時で、格助詞とそれ以外の助詞(後置詞)の構造的差異が理解されている。3・4歳時で(1)-(3)のような抽象的知識が獲得されていることから、刺激の貧困による議論により、文法に固有な生得的制約としての普遍文法が機能しているとの立場に強い支持を与えることになる。また、(1)-(3)には同時に日本語文法に固有な部分も含まれていることから、生後子どもが外界から取り込む経験の役割も認めることができる。 今後の課題は、さらに年少の被験者を対象に本研究と同趣旨の研究を行うことと経験の性質と役割について一層の特定化を行なうことである。
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