哺乳類細胞の増殖制御機構におけるサイクリン依存性キナーゼの役割に関連し、このキナーゼの活性制御機構に焦点をあてた。サイクリン依存性キナーゼのうちcdc2キナーゼはその活性が燐酸化により制御されている可能性が示唆されてきている。哺乳類細胞のcdc2キナーゼの場合3カ所の燐酸化、即ちN末から14番目のトレオニン残基(14-T)、15番目のチロシン残基(15-Y)、161番目のトレオニン残基(161-T)の燐酸化、がこの活性制御に寄与していると考えられている。そこでこれらの部位を燐酸酸化、脱燐酸化する酵素を検討した。分裂酵母のweel変異を相補する遺伝子ヒトweel遺伝子産物を大腸菌で発現させその活性を検討した。その結果この大腸菌発現ヒトweel産物はチロシンキナーゼでありcdc2キナーゼの15-Yを燐酸化する酵素であることが明かとなった。酵母の分裂期進行の変異cdc25を相補する遺伝子ヒトcdc25遺伝子はこの15-Yを脱燐酸化する酵素遺伝子として期待された。実際このヒトcdc25B遺伝子産物を大腸菌で発現させその脱燐酸化酵素活性を調べるとこの酵素は燐酸化cdc2キナーゼ・サイクリンB複合体を脱燐酸化し酵素活性を回復させた。この時この酵素は燐酸化14-T、15-Y、161-Tのうち14-T、15-Yを脱燐酸化し、キナーゼ活性を回復させたが161-Tは脱燐酸化しなかった。即ちヒトcdc25B遺伝子産物はcdc2キナーゼを脱燐酸化することによって活性化するトレオニン、チロシンホスファターゼであり、しかも基質特異性が高いものであることが明かとなった。161-Tの燐酸化は上記したことからもわかるように酵素活性を不活化することはなかった。逆にこの燐酸化はこの酵素の活性に必須なことが明かとなり我々はこの哺乳類の酵素としてマウスCAK(cyclin dependent kinase activating kinase)遺伝子を単離した。
|