多くの細胞は自らの容積をいつも一定に保つメカニズムを持ち、たとえ低浸透圧環境下に置かれて膨張を強いられたとしてもすぐに元の容積へと復帰するところの調節性収縮(RVD:regulatory volume decrease)を示す。小腸上皮細胞ではこのRVDはK^+チャネルとCl^-チャネルの並列的活性化によるKCl流出とそれに駆動されてもたらされる水流出により達成されること、そしてこのK^+チャネルは細胞内Ca^<2+>濃度増により賦活化されること、そしてこのCa^<2+>濃度増をトリッガーするCa^<2+>流入は、非選択性カチオンチャネルを通ってもたらされることが私達のこれまでの研究で明かとなっている。本研究ではこの細胞容積調節機構に関与するイオンチャネル、特にCl^-チャネルの活性化を制御する因子をパッチクランプ全細胞記録法と生化学的定量法を併用して解明することを目的とする。 (1)最近私達はアラキドン酸によってヒト小腸上皮細胞のRVDが著しく抑制されることを見いだした。そこで、本細胞の容積調節性Cl^-チャネルに対するアラキドン酸の効果を調べたところ著しい抑制作用が見いだされた。(2)しかしながら、RVD過程における燐脂質・アラキドン酸代謝産物を定量したところ、IP_3もアラキドン酸も遊離せず、これらの容積調節機構とりわけ容積調節性イオンチャネル活性への制御的関与は否定された。(3)cyclic AMPの定量も行ったが、RVD過程における変化は認められず、また細胞内投与によっても容積調節性イオンチャネル活性に変化は見られず、この制御因子としての可能も否定された。(4)しかし、細胞内のATPを取り除くと容積調節性Cl^-チャネル活性は著しく抑制され、この非水解性ATPアナログはATPの代替をしうることから、ATPの非水解的結合がこのチャネル活性に不可欠であることが明らかとなった。
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