PEBP2αはN端に近い129アミノ酸領域でショウジョウバエの体節形成遺伝子runtの産物と66%の相同性を有し、この領域にDNA結合ドメイン、βサブユニットとのダイマー形成ドメインが存在することが示唆されるマウス転写因子である。ヒト急性白血病関連遺伝子AML1ともこの領域を中心に高い相同性を持つことが知られていたが、最近このマウスホモログPEBP2αB1、B2cDNAが単離されたことで、これらの遺伝子をruntホモロジー領域を有する新しい転写因子ファミリーと提唱している。mRNAの発現は調べた限り細胞株で普遍的であるβに対して、PEBP2αはT細胞株、またマウス組織では胸腺に強く発現しており、血球系細胞とりわけT細胞特異的遺伝子発現に関与していることが強く示唆される。今年度は、特にPEBP2αを用い、細胞腫特異的発現のメカニズムを解析することを目的に同遺伝子の発現調節機構の解析を試みた。 結果、1.α遺伝子はマウス第17番染色体上に少なくとも50Kbにわたる7個のエクソンより構成されること、2.α遺伝子5'上流約2.5Kbを構造解析し、GATA、AP1、SP1等既知の転写因子の結合部位の他にプライマー伸長法により同定した転写開始点により500bp内にPEBP2自身の結合認識配列が5ヶ所存在していたことが判明した。現在、PEBP2α遺伝子プロモーター-CAT融合発現ベクターを構築し、種々の細胞株に導入し、自律転写活性化の可能性を含め、種特異的発現を規定するエレメントの検定をしているが、今のところ、特異性を担う領域は認められていない。今後は、他の転写因子との連関を含めてさらに検討を進めていきたい。また、他のrunt関連マウス遺伝子であるPEBP2αB1、B2の発現を調べると、F9細胞以外は複数の分子種が各々の細胞株(腺維芽系、血球系)で確認できた。次年度の研究の展開としては、これらαB遺伝子群についても対応する未同定cDNAの単離ならびに発現の特異性を解析する計画をしている。
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