分泌タンパク質は生体膜を透過した後で高次構造を形成しなければならない。大腸菌のペリプラズムにおいて膜透過後の(または膜透過に伴う)ジスルフィドボンド形成に関与すると考えられるDsba(ppfa)蛋白質を精製し、in vitroでその活性を解析した。 前年度までの研究でdsba変異株ではアルカリ性フォスファターゼ(PhoA)やβ-ラクタマーゼ(Bla)のペリプラズムへの膜透過は起こるがジスルフィドボンドが形成されず、プロテアーゼ耐性な正確な高次構造を形成できない事が分かった。dsbA遺伝子は2つのシステインを含む21kDaのペリプラズムタンパクをコードする。この遺伝子産物を過剰生産させ精製したところ、二量体であることが示唆された。精製したDsbAは、in vitro合成したPhoA或いは変性・還元した精製PhoAのジスルフィド結合形成を促進した。また、DsbAがペリプラズムの酸化還元状態を調節している事が示唆された。これらの結果より、dsbA遺伝子産物はペリプラズムタンパク質の生合成におけるジスルフィド結合形成の階段に直接的に働いており、ペリプラズムでの高次構造の形成を促進する因子であると考えられる。チオール基の酸化のような単純な反応が生体内では自発的に起らないことが初めて示されたことになる。 一方、in vivoでのPhoAの構造形成過程をパルス-チェイス実験で追求した。その結果、野生株細胞中ではジスルフィド結合形成は極めて迅速に起っており、還元型分子が検出できないが、プロテアーゼ感受性(特にジチオスレイトール存在下で)の中間体分子を検出する事ができた。従って、ジスルフィド結合が形成された後でフォールディング・アセンブリーが完結するものと考えられる。
|