本研究では細胞内のイノシトール量の調節に直接関与しているイノシトール輸送系遺伝子ITR1に焦点を当てて、イノシトールによる転写調節の機構を明らかにするために以下の実験を行なった。まずイノシトール輸送系遺伝子ITR1の全塩基配列はすでに決定しているので、この情報を基にイノシトールによる転写抑制に必要な調節部位を決めるためにdeletion analysis を行なった。その結果二つのUAS領域を決定すること出来た。どちらの領域にもこれまでのイノシトールによる転写調節に重要であることが明らかになっているオクタマーコンセンサス配列が存在していた。したがってITR1の発現もこれまでにわっかっている多くの遺伝子と同様にインシトールによって協調的に調節を受けることがわかった。つぎに情報伝達系に正に働く因子の遺伝子を単離するために、ITR1遺伝子の調節領域をHIS3遺伝子につなぎ、染色体DNAチジン要求性を示した。この株を用いて、多コピー染色体DNAライブラリーにより形質転換を行い、イノシトールの効果を抑制することのできる遺伝子をヒスチジン要求性を指標にして単離した。その結果三種類の遺伝子を単離することが出来た。これらの遺伝子の物産は、イノシトールによる情報伝達系の中で正に働く因子であると考えられる。この内二つはITR1とINO1の発現を共に顕著に高めることがわかった。種々の解析の結果、一つはINO1の転写因子であると考えられ、既にクローニングもなされているINO2と同一のものであった。もう一つは塩基配列決定の結果、新しい遺伝子であることがわかった。現在この遺伝子産物の機能を解析中であり、さらにイノシトールによる転写抑制に負に働く因子の遺伝子の単離も試みている。
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