研究概要 |
中枢神経系の神経細胞に特異的に存在するカルシウム結合蛋白質を見い出し,ラット脳より分離,精製した。電気泳動上の分子量は23000,等電点は51で,分子当り2分子のカルシウムを解離定数0,2および13μMで結合,アミノ末端は脂肪酸で修飾されていた。蛋白質分解酵素断片についてアミノ酸配列を決定したところ,EFハンド構造を持つカルモジュリンスーパーファミリーに属するカルシウム結合蛋白質で,網膜視細胞で光受容の感度調節を行っているリカバリンやS‐モジュリンと高い相同性を示した。そこで部分アミノ酸配列をもとに,脳cDNAバンクよりcDNAクローニングを行ったところ,2種類の相同性の高いクローンが得られた。1つのクローンについて,アミノ酸コーディング領域の全塩基配列を決定した。195個のアミノ酸残基よりなり,計算分子量21,600,3個のEFハンド構造とアミノ末端のミリスチン酸修飾の共通配列を有していた。mRNAはノーザンブロットから約2kbで,中枢神経系に特異的に分布し,中でも海馬に著しく発現していた。さらに大腸菌で発現させた蛋白質を用いて特異抗体を作製し,蛋白質の発現分布をイムノブロットで検討したところ,mRNAと同様に海馬に著しい発現を認めた。そこでこの蛋白質をヒポカルシンの命名した。海馬において,刺激受容に伴って増加する細胞内カルシウム濃度を感知して,刺激に対する反応性を調節している可能性が考えられ,標的酵素の検討を行っている。また同時に得られたcDNAクローンについても,塩基配列の決定など解析を進めている。
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