四肢のパターンは肢芽後部のZPA(zone of polarizing activity)と呼ばれる領域の間充織細胞により決定される。従来、ZPAのシグナルと考えられていたレチノイン酸はモルフォゲンとして直接作用しているのではなく、肢芽細胞を極性化することにより四肢のパターンを決定することが示された。本研究では、レチノイン酸による極性化のメカニズムを解明するために以下の点を調べた。 1.ホメオボックス遺伝子の発現にかかわるシグナル:ZPAを中心とした発現勾配を示すHoxDはAER(apical ectodermal ridge)からのシグナルによっても影響される。ZPA移植によるHoxDの発現誘導にはAER因子の共存が必要である。肢芽の先端部で発現するMsx1はAER因子によって影響され、一方肢芽間充織で特異的に発現するPrx1はAERの影響を受けない。これらのホメオボックス遺伝子の発現は四肢のパターン形成に必要な細胞間相互作用を反映していると考えられる。 2.パターン形成にかかわる増殖因子とそのレセプター (1)FGFファミリー:FGFレセプター(FGFR1〜4)のうち、FGFR2は外胚葉および軟骨に分化する肢芽中心部の凝集した間充織細胞で特異的に発現しているが、前後軸にそった発現に差は見られない。肢芽前部の間充織由来の初代培養細胞をFGF-2処理するとHoxD12の発現が有為に上昇する。FGF-4はニワトリ胚の肢芽でもAERで特異的な発現が見られる。さらに、FGF-4を肢芽の近くで強制発現すると、過剰指形成が誘導される。したがって、FGF-4はAER因子の1つと考えられる。 (2)TGF-βファミリー:TGF-βファミリーのレセプターは膜結合のSer/Thrキナーゼ様の構造をとる。その中の2種類のアクチビンレセプター、IIAとIIBは初期の肢芽では弱い発現しか見られない。このファミリーに属する新規RPK-1とRPK-2はその構造の比較から、それぞれBMP-2/4とTGF-βのタイプIレセプターであることが判明した。RPK-1は四肢の軟骨膜で弱い発現が見られる。 (3)HGF:肝細胞増殖因子(HGF)を産生している線維芽細胞MRC-5は初期の後肢肢芽の前部に移植すると、重複肢を誘導する。ニワトリ肢芽でのHGF遺伝子の発現はAER直下の間充織で見られる。前後軸にそった発現強度に差は見られないが、AERの形成とHGFの発現に時間的、空間的な相関が認められる。したがってHGFはAERの誘導/維持に関係する因子の1つと考えられる。 3.ZPA因子の候補Shh:最近、ZPAで局所的に発現するZPA因子の候補としてSonic hedgehog(Shh)がC.Tabinのグループによって同定された。また、BMP-2は肢芽後部で、一方BMP-4は肢芽前部で局所的に発現している。BMP-2は肢芽の伸展を抑制する作用があり、FGF-4とは反対の作用を示すとも言われている。したがって、これらの因子がどのように相互作用してHox遺伝子の位置特異的な発現を決めているのかを証明し、パターン形成のメカニズムの全体像を明らかにする必要がある。
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