本研究は、細胞内で合成された低分子量GTP結合蛋白質の各分子種が、機能を発現すべき形質膜、ER、ゴルジ装置、分泌装置などの細胞内コンパートメントへ輸送・局在化されるメカニズムを明かにすることを目的としている。このためのモデルシステムとして、我々は分裂酵母(Schizosaccaromyces pombe)を用い、今年度は特に輸送・局在化のための重要なステップの一つであるイソプレニル化のメカニズムの解明に焦点を当てた解析を行った。まず、この反応に関与する酵素群のうちras蛋白質の翻訳後修飾に必要と思われるファルネシル転移酵素(FTase)の部分精製を行い、詳細な速度論的解析を行った。この解析には、昨年度の研究で開発した方法を用いたが、基質には細胞内局在部位と被修飾部分のアミノ酸配列が異なるペプチドを用い、相互に比較検討を行った。イソプレニル化反応を触媒する酵素には、他に二種類のゲラニルゲラニル転移酵素が存在することが知られている。これら三種の酵素は基質蛋白質のC末端配列を認識するといわれているが、今回の解析から、分裂酵母のFTaseが示す基質特異性は、基質に対する親和性よりはむしろ反応速度定数の値そもものの差によることを明らかにした。この点については、今後さらに競合実験等により検証を進める予定である。分裂酵母のras蛋白質は、接合と胞子形成の誘導に必要なシグナルを伝達する経路で機能することが知られている。ファルネシル化酵素はその機能発現に必要な酵素であるが、一倍体、二倍体酵母とも特に発現レベルに差は見られず、また窒素飢餓、非飢餓条件下でも大きな変動は見られいことを示した。以上の結果は、ファルネシル転移酵素がras蛋白質以外の蛋白質の翻訳後修飾にも必要なあることを示唆するものである。
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