本研究は、統一ドイツを基軸とする新らしいEC統合理論の形成を目的としている。従来EC統合の促進要因として作用した力は、冷戦体制の下で米ソ超大国に対抗できる西欧の形成及びドイツ分割による西ドイツの従順さ(とりわけフランスのヘゲモニーに対する)であった。これら2つの要因の崩壊によって、EC統合の動向並びに統合進展の論理を新たに追求する必要が生じてきたのである。 平成4年度にはそのための基礎的作業として、(1)欧州連合条約の翻訳及び綿密な検討を行う、(2)ドイツ政府及びドイツ連邦銀行の通貨統合および政治統合への方針を明らかにする、(3)93年初めに発足するEC単一市場の動向と課題さらにそれに対するドイツの対応を明らかにする、という3つの課題を設定していた。 これらのうち、欧州連合条約の検討については、まず重要箇所(とりわけ通貨統合関連)を翻訳し、条約全体についても条文の詳細な検討を行って、『証券研究』誌に発表した。統一ドイツについては、東部経済の復興が統一時の予想よりはるかに困難であることが明らとなり、ドイツ経済の変調のためにEC統合全体に大きな狂いが生じてしまった。そこで「EMSの危機とドイツ統一」という論文を92年9月に執筆し(投稿中)、若干の分析を行った。通貨統合については、ドイツ連邦銀行の建前と本音の両方をかなりの程度まで明らかにすることができた。また通貨統合の方法論において新古典派的・市場至上主義的な方法とケインズ主義的・制度主義的方法とを区別することによって、平成5年度以降の研究目的へのアプローチの基礎ないし手がかりを得ることができたと考えている。
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