本研究は、統一ドイツを基軸とする新しいEC統合理論を政治経済学の手法で形成することを目指している。平成5年度には通貨統合の研究に集中した。BISを中心とする外国為替市場活動調査報告を利用して、研究代表者は、マルクが欧州諸国の外国為替市場において、直物取引およびアウトライト先物取引ではドルを浸食する形で為替媒介通貨となっていることを詳細に明らかにした。マルクを基軸通貨とする欧州為替相場同盟(ECおよびEFTA諸国を包括する)がついに民間の外国為替市場に影響を及ぼすに至ったのである。さらにユーロボン市場においても、1992年のERMの危機に至るまで、ドルを排除する形で欧州各国通貨およびECUの起債通貨としての使用が増大している事実を突き止め、為替および投資の分野で「欧州通貨圏」が出現しつつあることを示した。これによって、ドイツを基軸国とするERM(マルク=基軸通貨)におけるEC諸国の為替相場の安定→マルクの為替媒介通貨化→欧州為替相場圏の形成→起債通貨におけるドルの排除、という論理によって欧州通貨統合を位置づけることができるということが明確になった。これはドイツを基軸に統合理論を形成しようとする本研究にとって、貴重な手がかりとなるものである。
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