研究概要 |
1) 本年度,旧ソ連・東欧の政治経済状況の調査を行って発見した最大のポイントは,1989年秋に政権が交替したが国家は存続した東欧諸国と,ソ連国家が崩壊して新国家の建設途上にある旧ソ連構成国とでは,市場経済化の条件が決定的に異なるという点であった。国民の遵法精神が希薄化し税関も確立しておらず,キャピタルフライトも阻止できない旧ソ連構成国のばあい,市場化の方法をめぐる軸と強い権力のつくり方をめぐる軸との絡み合いの中で,政治混乱が生じていることを明らかにし,政治安定化を軽視した西側支援は,軍事独裁政権の成立を促しかねない危険のあることをアッピールしてきた。 2) 市場経済化を始めて1〜3年が経過して,各国はその政治経済的行き詰りから,新方向を模索し始めており,市場化は新局面をむかえつつあることが明らかになった。これはIMFが指導した急進的市場化路線の破綻を示しており,その問題点を解明し,軌道修正の必要性を指摘し,これが西側の利益にもなることを明らかにしてきた。 3) 体制転換の観点からみて重要な私有化政策の実施状況を検討し,無償方式を重視するチェコ・スロバキアやロシアなどと,有償方式をとるハンガリー,ブルガリアなどとの間の相異が明らかになった。また両方式の長所,短所を検討した。 4) 旧ソ連・東欧は経済自由化とキャッチアップという2つの課題に同時に直面しており,この点で戦後日本と共通しているが,基本的条件の差異もあり,日本の経験の機械的適用はできない。そこでその適用可能性を調査し,必要な補完的努力を明らかにしてきた。
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