1.本年度も旧ソ連・東欧諸国における体制転換の進捗状況を調査したが、最大の発見は、ロシアに関するものであり、極めて重要である。その要点は、ロシアは3つの「強い手」を同時に必要としているという歴史的にも稀有な状況に直面しているという点にある。すなわち第1に、市場経済への移行過程で人々の我慢を確保するために強い手が必要となっており、これは「開発独裁」と共通する面を持つ。第2に、民族主義、地域主義に由来する分離主義の傾向が、中央と地方との間で財政戦争といった形で強まっており、、ロシア連邦という国家を維持するためにも、強い手が必要になっている。第3に、遵法精神を失い無秩序化した社会を秩序ある社会にするための強い手が必要になっている。ロシア社会ではいわばヒットラー、スターリン、ナポレオンの性格を合せ持つような強い権力の確立が客観的に要請されており、西側はロシアに対する国際的対応を誤らないように、慎重でなければならない。議会を軽視しエリツィン個人を支援する西側のやり方は、軍事力利用をもたらす可能性があり危険であるという私の昨年春の予測通りに、ロシアの事態は発展してきた。今後の事態の進展を注意深く観察していきたい。 2.ロシアと東欧における私有化政策の比較検討を行い、その進捗状況を明らかにするとともに、とくにロシアの私有化小切手方式のもつ問題点を考察し、経営合理化の困難な傾向や市民の不満が累積する傾向を指摘し、またロシアにける私有化のしかるべき進め方についての提言を行った。
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