1) 本年度は、本研究の最終年度にあるため、旧ソ連・東欧の市場経済化状況はこれまでの分析を総合的に再検討し、1冊の本にまとめる努力を行った。『社会主義から資本主義へ-ソ連・東欧における市場化政策の展開-』がそれである。1989年以降の論文を現時点から見直し改討する努力を行うとともに、本書第6章、第7章、第9章などを仕上げる作業を行った。 2) 個別テーマとしてみると、ロシア・東欧における私有化政策の特徴と私有化の進捗状況を考察し、とくにロシアについて詳しい検討を加えた。またロシア・東欧における市場経済化政策の実施状況、その政治的・経済的帰結を明らかにし、「ショック・セラピー」的アプローチの維持が事実上不可能になった状況を分析した。 3) その上でロシア・東欧においては、産業政策的アプローチが必要であるだけでなく可能でもあることを詳しく考察した。とくに計画経済が崩壊したが市場経済が未形成である制度的真空状況においてはそうしたアプローチがきわめて重要であることを示し、同時に産業政策を否定する見解の論拠をも紹介し、それか十分な根拠を持たないことを明らかにした。 4) 産業政策的アプローチをとるばあい、戦後日本の経済運営の経験が役に立つか否かが問題になるが、当時の日本と近年のロシア・東欧とでは共通した基本条件と異なる条件とが並存しているため、日本の経験がそのままそこに当てはまる訳ではないが、日本の経験からアプローチの点で示唆を汲みとったり、個々の要素を学んだりすることは有益であることを明らかにした。 5) 以上の研究作業を行う上で、研究補助金はとても有り難かったことを記して、感謝の意を表したい。
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