不完全競争の諸要素を含む国際貿易の一般均衡モデルを構築し、(a)Ricardo-Mill、Heckscher=Ohlinなどの比較優位に基づく国際分業論と (b)Grahamの規模の経済性を根拠とする保護貿易論を再検討した。具体的には、各産業において代表的企業がU字型の平均費用曲線を持ち、価格調整者として行動するものとする。また、新規参入には、調査、企画、立案、人員の手配・訓練等に伴う1回限りの費用がかかり、それをカバーする営業利潤が長期的に得られると予想されないかぎり、参入は生じないものとする。このような設定の下で、Richard=Mill流の2国2財1要素モデルとHeckscher=Ohlinの2国n財n要素モデルを再定式化し、(i)各産業のマークアップ率が所与で、しかも国際的に均等であれば、従来の比較優位に基づく国際分業の諸定理がすべて成立すること、(ii)各産業のマークアップ率が国際的に均等でなければ、他の条件を同一とする限り、各国はマークアップ率が相対的に低い産業に比較優位をもつことを明らかにした。また (iii)企業数が所与となりマークアップ率が内生的に決定される可能性があることを考慮すると従来の貿易利益の分析がいかに修正されるか、(iv)Graham流の保護貿易論が不完全競争モデルにいかに拡張されるか等について検討した。また、内外の2企業が国際的な販売競争を展開する部分均衡モデルを開発し、各企業の拡販意識がそれぞれの業績、国際分業、経済厚生に及ぼす効果を明らかにした。この他、不完全競争と企業の参入、退出の可能性を考慮して、マクロ経済の総需要・総供給モデルを拡張した。これは不完全競争下の国際マクロ経済モデルの基礎となるものである。
|