不完全競争下の国際貿易の一般均衡モデルに関する前年度の研究成果を再検討し、次のような新たな結果を得た。各産業において代表的企業がU字型の平均費用曲線を持ち、価格調整者として行動するものとする。但し、国際貿易の伝統的なモデルに従って、企業の参入・退出は自由であり、しかも何らの費用も要しないものとする。こうした設定に加えて、各産業の独占度(厳密には共謀度)が不変に保たれるという条件の下で、新たに(〓)「自由貿易、あるいは自己採算的関税下の貿易はアウタルキーに比してパレート優越である」という完全競争モデルの貿易利益命題が依然として妥当すること、また(〓)完全競争モデルの比較静学分析の大部分がそのまま適用可能であることがわかった。これらの結論は不完全競争の下ではあらゆることが起こり得るという最近の不可知論の一角を切り崩し、完全競争モデルによる従来の諸成果の部分的復権を実現するものである。これらの検討結果を踏まえて従来の最適政策の理論を2国不完全競争モデルに拡張した。不完全競争下の直接投資の分析も同様のアイデアに基づいて拡張可能である。しかし、本年度は直接投資研究への準備作業として、東アジアにおける直接投資と国際貿易の実証分析をこころみると共に、出井文男教授(神戸大学)の著書『他国籍企業と国際投資』(東洋経済1991年)を詳細に検討し、その結果を書評論文にまとめた。また、本年度は不完全競争下の貿易モデルの変種として、労働市場に独占的要素があるケースを定式化し、工業化政策の効果を研究した。
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