原始マントルの分化過程において重要な役割を果たすマグマオーシャンの進化について、数値モデルを用いて理論的な解析を行った。(1)マグマオーシャン形成の原因の一つである衝突による融解現象について検討を行い、10^<19>kg程度以上の微惑星が7〜8km/s以上で衝突すれば大規模な溶融が起こり得ることを確認した。(2)高温高圧実験データの収集と整理、特に高圧下での融解実験の結果を整理して、マントルの融点の適当な近似式を作成した。(3)マグマオーシャン対流の計算に用いてきた混合距離理論を改良し、化学的成層や鉱物粒の混在の効果を取り入れられるようにした。(4)現実的計算に対応した数値モデルの改良を行い、それを用いて数値実験を行った。特に、高圧下で予想されている共存する固液の密度逆転がマグマオーシャン進化に与える影響について検討した。密度逆転発生の原因をa.固液の圧縮率の違い、b.液相に鉄が濃縮し易いこと、に分類し、前者を絶対的密度逆転、後者を条件付密度逆転と呼んで区別した。絶対的密度逆転の存在下では対流運動・固液分離共に深い方へ熱を輸送し、マグマオーシャン深部の冷却が阻害されるので、強い超断熱勾配が実現し、冷却の最末期に大規模なオーバーターンを起こして解消する。一方、条件付密度逆転の場合は対流は常に上向きに熱を運ぶのでマグマオーシャンは順調に冷却し、マグマオーシャン上部は冷却に伴ってちょうど密度逆転が起こらない組成に保たれるように進化する。この場合、マグマオーシャン消滅直後の上部マントルの鉄マグネシウム比は現在のマントルのそれと同じくらいか、ややマグネシウムよりになることを予想した。今後この予想を確認するため3成分から5成分系の熱・物質輸送・進化モデルを用いて検討することが必要である。
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