本研究の成果は(1)マグマオーシャン冷却を中心とした初期進化シナリオの作成、(2)深部マントル分化の条件の検討、に大別される。 (1)初期進化シナリオ:(a)部分溶融状態の物質では部分溶融度と臨界部分溶融度大小関係によって粘性率が劇的に変化する。このため、マグマオーシャン進化を2段階に区分できる。部分溶融度が臨界部分溶融度よりも大きい場合を「柔らかいマグマオーシャン」、臨界部分溶融度よりも小さい場合を「硬いマグマオーシャン」と名付ける。(b)柔らかいマグマオーシャンの内部では激しい対流混合のために化学分化が進行しない。また、急速な対流冷却のために強カな熱源が無い場合には百万年程度で消滅し、硬いマグマオーシャンに移行する。(c)硬いマグマオーシャンの内部では対流運動が相対的に不活発なので化学分化が進行する。また、冷却が遅いのでこの状態は少なくとも1〜2億年間持続し、形成直後の地球の原始マントルは硬いマグマオーシャンの状態にある。(d)形成直後の原始地球表層には既に海洋が存在する。このため薄い急冷地穀が形成されるが、硬いマグマオーシャンが存在する間はこの原始地穀は内部からの火成活動によって頻繋に更新される。この時期には外からの天体の衝突も重要な寄与をする。 (2)深部マントルの分化の検討:固液間での微量元素の高圧下での分配実験から、現在のマントル組成と深いマグマオーシャンの存在が矛盾する可能性が示唆されていた。しかしながら、(a)下部マントルに達するような深いマグマオーシャンの生成は必ずしも下部マントル正力下での分化が進むことを意味しない。(b)特に、大気がない場合には分化が進むよりも速く対流冷却でマグマオーシャンが固化するので分化しない。(c)しかし、大気によって表面温度が2200K以上に保たれると分化が進行する。すなわち深部マントル分化は惑星集積の形態に依存する。
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