Alzheimer型痴呆の剖検例について、大脳皮質に形成される老人斑と神経突起の変性所見との関連を電顕的、免疫組織化学的に検索し、次の成果が得られた。 1.リン酸化されたneurofilament蛋白に対するモノクローナル抗体をマウス腹水より抽出し、アフィニティークロマトグラフィーなどにより分画精製した結果、この抗体は免疫電顕的検索にも使用可能となった。 2.老人斑内外の微細構造の検索し、β蛋白免疫染色を施した準超薄切片との対比を行なったところ、び漫性老人斑では斑の内外で神経軸索の変性所見は認められず、リン酸化されたneurofilament蛋白の蓄積は観察されなかった。典型的老人斑では神経軸索の不規則な腫大と球状構造の形成がみられ、そこにneurofilamentの集積が認められた。免疫組織化学的にはこの部位にリン酸化されたneurofilament蛋白の局在が観察された。 3.び漫性老人斑の内部においてもシナプスの微細形態は良く保たれていた。 4.び漫性老人斑では、斑に一致してsynaptophysinの免疫組織化学的反応の増強が見られた。一方、典型的老人斑では斑の内部でsynaptophysinに対する免疫組織化学的反応が減弱していた。 5.以上の結果より、老人斑におけるβ蛋白の沈着は、初期には近接する神経軸索の微細構造や軸索輸送に障害を与えないが、末期には軸索病変を発生させ、軸索蛋白のリン酸化と軸索輸送の障害をもたらすことが明らかになった。また、び漫性老人斑の内部ではシナプスの構造に異常はなく、シナプス蛋白の発現の増強が発生していた。これは老人斑内部におけるシナプス伝達障害に対する生体の修復反応である可能性が示唆された。
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