家族性アルツハイマー病(FAD)患者および正常人由来リンパ芽球細胞(LCL)においてβアミロイド前駆体蛋白(APP)の各部分に対する特異抗体を用いたAPPプロセッシング解析およびそれに引き続く分子生物学的解析から、当該年度中に次のことを明らかにした。 (1)FADLCLは正常細胞と比較して2-3倍のAPP-mRNAおよびAPP蛋白を発現しており、それはα1-アンチキモトリプシンの発現増加とともに、インターロイキン-1を介した上位制御による。 (2)FADLCLはβA4アミロイドおよび細胞質ドメインを含む16kDaプレアミロイドペプチドを正常細胞の3-5倍蓄積しており、それは代謝ラベルしたAPP蛋白のキネティクスの解析から、APPの発現増加のみによるものではなくプレアミロイドそのものの分解障害も原因となっていることを明らかにした。 (3)16kDaプレアミロイドはギ酸処理を伴う調整法により4種のペプチド(7-15kDa)が凝集して形成されていることが判明し、それらのN端側切断部位を明らかにした。 (4)FADLCLは68kDa、Ca^<2+>依存性セリンプロテアーゼを特異的に細胞内外に発現しており、それはKunitz型プロテアーゼインヒビタードメイン(KPI)を介してAPPと熱に不安定でSDSに安定な複合体を形成し、細胞外分泌蛋白および膜蛋白中でそれぞれ120および180kDaバンドとして検出される。 (5)本プロテアーゼはβ-アミロイドペプチドのN端近傍オリゴペプチド(P18;SEVKM-D^<βA4-12> AEFRHDSGLTN^<βA4-12>)を基質としてそのLys^<-2> -Met^<-1> -Asp^<βA4-12>の両結合をCa^<2+>の存在下で切断する活性をもち、EDTAあるいはキモトリプシン系セリンプロテアーゼ阻害剤により阻害される事、また天然の完全長APPも基質となり、16kDaプレアミロイド断片が主要産物である事が判明した。 (6)APPに対する抗体で共沈できる特性を利用して精製した本プロテアーゼを抗原としてウサギを免疫し特異抗体を得た。本抗体(抗68k抗体)を用いて、アルツハイマー病患者脳側頭葉由来のcDNAライブラリーの免疫学的スクリーニングを行い、複数の陽性クローンを得た。各クローンのインサートDNAを蛋白発現ベクターつなぎ大腸菌に産生させた蛋白をP18オリゴペプチドを用い切断活性を薄層クロマトグラムにより解析した結果、活性を持つ1.8kbのcDNAクローンを得た。
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