本年度の研究においてはまず、前年度にヒト臍帯静脈由来内皮細胞の老化細胞のcDNAライブラリーからディファレンシャル・スクリーニングにより得られた約300個のクローンについて、さらにスクリーニングを繰り返してクローンを純化した。純化したクローンのうちの数十種についてその塩基配列の決定を行い、データベースに照会して既知の配列かどうか検討したところ、2つのクローンが未知のクローンであることが判明した。今後、これらのクローンについてさらに解析を進め、これらの遺伝子が細胞老化において果たしている役割について解明する予定である。 一方、我々は血管内皮細胞の老化に伴ってエンドセリンの分泌が増加することを明らかにしてきていたが、今回、培養系で老化した血管内皮細胞および生体内で老化した血管内皮細胞を用いて、このエンドセリン産生量の増加が主にmRNAのレベルで増加することによっていることを明らかにした。前年度には、血管内皮細胞および線維芽細胞が老化するに伴ってフィブロネクチン遺伝子の発現が高まってくることを明らかにしているが、このエンドセリンの老化に伴う発現増加についても、我々は、高齢者において血中エンドセリン濃度が高い傾向を観察しており、生体内で血管内皮細胞の老化が進行していることを示唆している。 本研究で明らかになったように、フィブロネクチンの細胞老化に伴う発現増加は、線維芽細胞のみならず血管内皮細胞においても観察されることであり、特定の細胞に特異的な現象ではなく、多くの細胞に共通の老化に関わる現象と考えられる。また、血管内皮細胞の老化に伴っては、エンドセリンの発現増加も明らかとなったので、これとの共通の発現制御機構の存在について検討することが今後の重要な課題となっている。
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