研究概要 |
コラーゲンゲル培養法を導入することにより成熟・老化マウス及びラットから末梢・中枢神経組織を摘出し培養することに成功した。中枢神経組織として網膜を,末梢神経組織としては脊髄後根神経節を用い神経再生を促進する肝細胞分泌因子の活性・作用機序・因子の同定について検討した。成熟ラットの視神経を予め切断し,7日間飼育後眼球を摘出し網膜を細断してコラーゲンゲル内で培養した。培養24時間後より網膜片から突起が再生してきた。これらの突起は神経に特異的な抗体である抗Neurofilamt抗体,網膜神経節細胞に対して特異的な抗Thy-1,2抗体に陽性で,網膜神経節細胞からの再生神経突起であることが明かとなった。この培養網膜片に,成熟ラットをコラゲナーゼ潅流して分離し,精製後肝実質細胞をWilliam's Eを基本培地とする無血清液で培養し,その培養上清(HCM)を作用させた。培養3日目でHCMにより再生神経突起数は2.6倍に達した。HCM中には中枢神経の神経再生を促進する因子が含まれていることが判明した。この因子は膜による分画でSK<<100Kに存在し,95℃・5分の熱処理で変性するタンパク質であることが明かとなった。一方成熟・老化した動物の末梢神経系においても同一の分画の因子が,神経線維をともなった脊髄後根神経節の神経線維切断端からの神経再生を促進することが明確となった。用いた培養系は生体中ときわめて近い器官培養なので,肝細胞から分泌されている因子が成熟・老化した動物の生体内で中枢・末梢神経系の神経再生・生存維持効果を発揮することが出来ると期待される。現在まで神経再生促進作用があると考えられている20種類の物質を検討したが,この因子と同様な作用を発現する因子はなく,新たな物質である可能性が高い。現在この因子の分離精製を行っており,単一のタンパク質として単離し,そのアミノ酸配列を決定出来るのも間近である。
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