柱頭に着地した花粉は発芽し、離れた位置にある胚珠へ達する。数多くの蛋白質分子が花粉の発芽を促進、もしくは制限することによってこの過程を制御しており、花粉管伸長は花粉と雌蘂の相互作用によって誘発される外的、内的シグナルを媒介する蛋白質の経路を経て起こる。これらの過程に含まれるシグナルの性質の多くは未だ明らかにされていない。 花粉と雌蘂の相互作用は、細胞間の認識と情報伝達に関する研究に興味深い、挑戦的なモデルを提供する。 我々はシロイヌナズナ由来の花粉をプロテオミクス的手法を用いて解析することにより、受精過程に関わる重要な蛋白質を同定することを目指した。シロイヌナズナの花約3000花分の抽出液を二次元電気泳動に供し、PVDF膜へ転写後、CBB染色することによって36個の主要なスポットを同定した。これらスポットを切り出し、トリプシン消化処理を施して質量分析計による蛋白質の同定を試みた。上述の研究に加え、遺伝学的解析を行った。シロイヌナズナにおいて、タバコの花粉と花粉管に特異的に発現している蛋白質リン酸化酵素と相同性のある遺伝子をクローニングした。RT-PCR解析の結果、この遺伝子は花には発現しているが、葉や茎には発現していないことが示された。発現ベクターpGEXを用いて、この遺伝子を約70kDaのGST融合蛋白質としてクローニングした。現在、二次元電気泳動により同定された蛋白質との相互作用を調べるための抗体を得るために、効率の高い発現系とアフィニテイークロマトグラフイーによる精製の条件を検討中である。 MALDI-TOF-MSやLC-MSを用いた解析によって、シロイヌナズナの花粉に発現している蛋白質を同定することが出来る。今後、既によく知られたRop1蛋白質(GST融合蛋白質として発現)や上述の蛋白質リン酸化酵素類似蛋白質と相互作用する未精製の花粉抽出液に含まれる蛋白質を解析する。
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