研究概要 |
あらゆる動物は環境の変化に実時間で対応できるような適応的行動をとることができる.これは,動物が進化の過程で適応機構のひとつとして獲得した神経系の働きによるものである.したがって,動物が,いかにして状況に応じた適切な行動を発現するのか,その神経生理機構を理解することで,動物が進化の過程で獲得した情報処理機構を理解することにつながる. 状況に応じて行動を切換える際の神経生理機構を解明するには,神経の可塑性や神経伝達の修飾作用の生理機構を解明することが必須である.昆虫の同定可能な神経回路網において,一酸化窒素(NO)がどの様な役割を担っているか明らかにし,行動発現・切り替えの神経生理機構を解明するため研究を続けてきた.共同プロジェクトでは,コオロギやミツバチをモデル動物として採用し,喧嘩行動と学習,記憶に関与するNOの役割を解明しようとしている. これまでに,雌コオロギの喧嘩行動と,雄コオロギの喧嘩行動の発現機構について行動学的な研究を進めてきた.そして,雌雄の行動発現パターンを比較するとで,雌雄の喧嘩行動発現にかかわる脳内の行動プログラム抽出機構について検討中である.一方,喧嘩行動の記憶にはNO/cGMPカスケードが関与することがわかってきた.しかし,NO合成酵素(NOS)の局在については未だ議論の余地が残っている.そこで,NOS塩基配列を決定し(NCBI AB245472),現在,コオロギの脳内における発現様式を確認中である.これにより,これまでに得られた組織学的手法により一酸化酵素産生細胞の局在についてより詳細に議論できるようになる.
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