研究概要 |
1.細胞内寄生性病原体(リステリア菌)の感染そのものが樹状細胞に変化を引き起こし、T細胞の抗原特異性に関わらずに、獲得免疫系のシフトを起こす。この感染に伴う宿主の免疫応答は、細胞内に侵入した細菌と宿主細胞との関わりにより活性化され、この活性化はT細胞抗原レセプターによる活性化とは独立したものである。 2.リステリア菌は樹状細胞や腸管上皮細胞へ侵入する性質を持つことから、細胞外寄生性細菌の感染による宿主応答とは異なる局面を持つと考えられる。細胞外感染性細菌の感染病態に重要なTLR群は、細胞内寄生性細菌の感染に伴う感染初期遺伝子の発現には密接に関わるものの、宿主免疫系の偏倚、特にTh1/Th2細胞サブセットの偏倚には影響を及ぼさない。さらに、リステリア菌の感染初期に作動する細胞内侵入に関わる遺伝子(InlA/B, hly, mpl, actA, plcB, etc)の欠損変異株を用いたin vitro感染系で、これらの遺伝子群がT細胞を中心とする宿主免疫系の活性化には影響しないことが明らかになった。 3.ウイルスと同じく細胞内に侵入する性質を持ち、上皮細胞やマクロファージ、樹状細胞に特異的に感染するリステリア菌を用いた遺伝子導入法の基礎開発を行ってきた。リステリア菌を特異的に分解するファージ由来の酵素をビルレンス遺伝子のプロモーターに結合し、ビルレンス遺伝子発現以前に菌を自己分解する方法がとれる。この考えに基づき、リステリア菌をベクターとして用いた細胞種特異的遺伝子導入法を開発した。この新しい遺伝子導入法を用いたこれまでの解析で、宿主免疫応答を変化させることができることが明らかになった。さらに、極めてわずかのリステリア菌ベクターの腹腔内投与により、脾臓に接種したメラノーマ細胞の増殖がほぼ抑制されることを見いだした。
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