日本と韓国の国会図書館に所蔵されているSCAPの朝鮮と日本での検閲資料を調べた。特に、SCAPによる在日朝鮮人連盟の解散及び財産没収、民族学校閉鎖など厳しい朝鮮人政策と、それに抗議する『民主朝鮮』への厳しい検閲に注目したが、それらの状況をめぐる言説から立ち上がつてくるのは「在日朝鮮人」の歴史語りであった。一方、『アカハタ』『前衛』などの共産党系メディアに対する検閲資料を調べることで、共産党対朝鮮人の「共同闘争」の場は、日本民主主義革命の実現が優位に置かれ、朝鮮人党員が日本共産党の方針に追従する形で構築されたことがわかった。これらの調査から、「在日」というエスニック・アイデンティティが形成されたと認識されていた占領期において金達寿ら、朝鮮人の書き手は、朝鮮戦争、朝鮮解散など当時の朝鮮人が置かれていた状況を抑圧し、「日本の革命運動の主体としてしか発言していなかったことが明らかになった。今後、アメリカ、朝鮮(韓国)でのSCAPの検閲資料を調べるとともに、一九三〇年代の日本政府による朝鮮系メディアへの検閲も調べることで、一九四〇年代から六〇年代の日本語文学の編成がどのように行われたのかについて明らかにすることができるだろう。
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