赤道大気中で卓越するケルビン波、大気潮汐、大気重力波等は力学エネルギー・運動量の上方輸送を担うが、その理解は不十分である。また、大気微量成分の対流圏・成層圏混合過程で重要な役割を果たす、熱帯対流圏界面の温度構造の変動特性も未解明である。この一因は、熱帯域では気象官署による定常ラジオゾンデ観測が不十分だったためであり、キャンペーン観測が実施されつつある。一方、最新のGPS掩蔽ではラジオゾンデと同等の高度分解能で約30kmまで気温を測定できる。この研究はインドネシアで実施されたラジオゾンデ集中観測とドイツのCHAMP衛星によるGPS掩蔽のデータを用いた。 インドネシア西スマトラにある赤道大気レーダーを中心に、2002年11月および2004年4月に1ヶ月にわたってラジオゾンデキャンペーン観測が実施された。これらのデータを解析し、特にインド洋からインドネシアに向けて東進する積雲クラスター(Super Cloud Cluster: SCC)が成層圏に現れる周期2-3日の慣性重力波の励起に関与していることを明らかにした。なお、長波放射(OLR)の衛星データをSCC分布の指標とした。 また、対流圏界面付近から成層圏に現れる周期10-12日のケルビン波が対流圏界面の温度構造を大きく変動させていることを示した。ケルビン波の経度伝播特性をGPS掩蔽による全球データを用いて調べ、成層圏では一般に東進の波数1と2の成分が卓越すが、対流圏では積雲対流が活発な領域に、経度構造が比較的小さい波動成分が局在し、かつ大振幅となることを示した。 一方、熱帯域の対流圏界面高度(Cold Point Tropopasue)は、従来は赤道上で最も高いと考えられていたが、GPS掩蔽の高高度分解能の気温データを解析したところ中緯度の方が高くなる事例があることを発見した。
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