研究概要 |
データ空白域とされてきた赤道域の成層圏の大気特性を解明することを目指し、インドネシア西スマトラの赤道大気レーダー観測所を中心に行われた気球(ラジオゾンデ)集中観測結果、ならびにCHAMP衛星によるGPS掩蔽データを用いた研究を行った。とりわけ、対流圏・成層圏の物質循環や大気波動エネルギーの上方輸送に重要な役割を果たす熱帯域対流圏界面の微細構造の特性解明、ならびに赤道域で活発な積雲対流により励起される多くの大気波動のうち特にエネルギー・運動量の上方輸送を担い大気大循環の駆動力となっている大気重力波および赤道ケルビン波の特性を研究した。 インドネシア域の5ヶ所で2004年4-5月に行われたラジオゾンデ集中観測の結果を用いて、慣性重力波の鉛直構造および時間変動を事例解析した。対流圏上部・成層圏下部において卓越した重力波(周期2-3日、鉛直波長は3-5km)が認められた。波動エネルギーは高度約20kmで最大となるが、必ずしも時間連続ではなく間欠的であった。重力波の水平伝播特性を5観測点間で相互相関解析し、水平波長約1,700kmで東南東の方向に伝播していたことが分かった。長波放射(OLR)の衛星データを用いて雲分布の時間・空間変動を調べ、インド洋からインドネシア海洋大陸に向けて東方伝播する積雲対流群が重力波励起に関与していることを示した。また、ラジオゾンデとGPS掩蔽データを併用して、対流圏上部・成層圏下部におけるケルビン波の特性を解析し、東西波数1,2で東進する成分が特に卓越していることを示し、その気候学的特性を明らかにした。ケルビン波は対流圏界面の温度構造に大きな変動を与えており、対流圏界面高度および極小温度が周期的に変動することが分かった。なお、東西波数が1ないし2の全球規模のケルビン波に加えて、局所的な波動擾乱も起こっており、積雲対流がその励起源となることを示した。 これらの研究成果を国際学術誌に論文公表した。
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