研究概要 |
不揮発性メモリやマイクロマシン(MEMS)応用を期待して、強誘電体薄膜は過去15年ほどの研究を経て現在非常に注目されるようになっている。これらの薄膜材料の中でも不揮発性メモリ素子応用にはPb(Zr,Ti)O_3(PZTと略す)系の化合物が代表的で、それは薄膜作製が容易なことと高い残留分極、高いスイッチング速度、高いキュリー温度といった特性、比較的低いプロセス温度のためである。しかし分極疲労つまりスイッチングサイクルの繰り返しでの残留分極低下がPt電極上のPZTで発生し、不揮発性メモリの実現への重大な障害になっていた。本研究では新規なバッファ層と疲労耐性材料を用いてこの問題の対策を試みた。 PZTの疲労耐性を向上するため、PZT薄膜とPt電極の間のバッファ層として反強誘電体PbZrO_3(ジルコン酸鉛)の調査に取り組んだ。2種類の異なる手法を用いて反強誘電体PZ薄膜を得た。それは、sol-gelスピンコーティング法とRFマグネトロンスパッタ法である。sol-gel法にて、均質なPZ結晶化膜を得られる作製条件を詳細に研究した。プロセス条件としては、ドーピング組成、アニーリング、焼成温度の影響について調べた。良好な結晶が得られる最適条件を決定でき、[111]結晶配向PZ薄膜で均一な微細構造が得られ、それらは3件の論文にまとめた。そのうち2件はすでに公表を済ませ、のこり1件は公表が受理されている。RFマグネトロンスパッタ法においてもPZバッファ層の最適作製条件を決定した。この課題における現在の研究としてはRFマグネトロンスパッタ法で得たPZ薄膜の電気的特性の評価と微細構造の最適化を進めている。 前節の研究にはRFマグネトロンスパッタ法で得たPZ薄膜を用いたが、sol-gel法に比べてスパッタPZ膜の微細構造は均質であったためである。さらに、RFマグネトロンスパッタは様々な組成でさらに薄い膜を得るのに適していることがわかった。PZT/PZ多層構造の初期段階の結果では疲労耐性は格段に改善した。10^9回の分極反転まで疲労は観測されなかった。この成果は現在投稿中である。 以上の成果から、疲労現象の物理現象の理解への展望を得、疲労耐久性を改善することができた。
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