研究概要 |
本研究はナノサイエンスの新領域開拓と新しいナノクラスターの創成を目指した金属内包シリコンクラスターとそれを基本構造に持つナノ構造体に関する研究である。従来、金属元素とシリコンの系のナノ構造体では、1965年フランスのCrosらにより合成された、ガスハイドレートと同形のシリコンクラスレート化合物(Silicon Clathrate)が広く知られていた。これはSi20,Si24,Si28の多面体ケージの連結により構成されており、ケージ内にはアルカリ金属原子が内包されている。シリコンが炭素と同じIV属元素であることや、金属をドープした炭素クラスター、フラーレンとの構造の類似性が注目されていた。さらに、2001年に、筑波大学の研究グループが実験と理論計算により、タングステン内包シリコン12量体が六角柱の形状であり、極めて安定であることを見出した。本研究では、シリコンクラスレートのようにケージが繋がった形状ではなく、より対称性が高く、安定な構造体の網羅的探索を行った。 さらに、その電気伝導特性を第一原理シミュレーション計算によって詳細に検討した。内包元素によって、半導体、金属、さらには半金属までが可能であることを示すことに成功した。特に、磁性に関する研究では、スピントロニクス用材料として期待できる機能を予言した。現在、これらのシリコンクラスターを用いたスピントロニクスデバイス材料への応用、シリコン表面上への金属元素の吸着、希土類元素のフラーレンとの反応性についても研究を進めている。
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