研究概要 |
希土類金属イオンと第一遷移金属イオンの組み合わせによる二核錯体を合成し,その磁気的挙動の詳細を検討した.本錯体は有機配位子ビスピリジルカルボニルアミン(bpca)により形成された鉄単核錯体を構築ユニットとし,この単核錯体を配位子として希土類金属イオンに配位させることにより合成され,鉄(III)イオンを含むユニットを用いると二核錯体が,鉄(II)イオンを含むユニットを用いると一次元鎖状錯体が生成する.後者は非磁性の低スピン鉄(II)を含むことから希土類金属イオンは磁気的に孤立し,磁気的相互作用のない状態における磁気的振る舞いを見積もるのに有用である.鉄(III)-希土類の系において,パルス磁場中における磁化過程を観測したところ,いくつかの錯体に磁気的なヒステリシスが観測されるとともに,静磁場中での交流磁化率において磁場に対する磁化の遅延が観測された.また,鉄(III)-ジスプロシウム二核錯体においては,メスバウアースペクトルにおける磁化の緩和過程が観測され,以上の点より,これらの錯体は第一遷移金属-希土類金属イオンの組み合わせによる世界で3例目の単分子磁石であることが確認された.このように,ヘテロ系における単分子磁石の合成指針を確立するとともに,分子軌道計算に基づく各軌道準位の算出を行ない,単分子磁石となるための磁気異方性の由来を明らかにし,理論的な面からも本系が単分子磁石となることを解明した.
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