酸素飽和塩化亜鉛水溶液からの酸化亜鉛薄膜のカソード析出において、エオシンYなどの特定の水溶性色素を共存させると酸化亜鉛とエオシンYの複合膜が得られる。これを希アルカリ水溶液で洗浄することでエオシンYを脱着すると、結晶粒内に無数のナノポアが形成されたポーラス結晶薄膜となる。本研究では、この膜を用いた低コストな固体フィルム型太陽電池の作製について主に次の2種類の方法を検討した。 一つは、作製したポーラス酸化亜鉛薄膜表面に色素を吸着させ、その上に通常の色素増感型太陽電池で用いられる電解液の代わりに、CuSCNなどのp型半導体層をホール輸送層として電気化学析出法により作製し、全固体フィルム型太陽電池を作製した。光電気化学特性評価の結果、色素の光励起に基づく光電流と光起電力が観測され、太陽電池として作動可能であることがわかった。しかし酸化亜鉛ポーラス構造の細部にまでCuSCNの電析が困難で、エネルギー変換効率としては低い値にとどまった。 もう一つは、ポーラス酸化亜鉛表面に色素の代わりにCdSeナノ微粒子を化学析出させることで、無機顔料増感太陽電池の作製を試みた。3-5mm程度の量子サイズ効果を示すドットが一様に形成され、膜は赤く着色した。ポリ硫化物を含む電解質溶液を用いた電池において光電流量子効率(IPCE)の最高値が57%に達し、量子ドットからの電子注入が高効率に起こることが確認された。しかし、電解液中ではCdSeの光溶解が急速に進行するため、実用的なデバイスとならないため、上記と同様に電解質溶液を固体ホール輸送材料に置き換えた乾式デバイスの作製が必要であることがわかった。 ナノポーラス酸化亜鉛薄膜を用いた低コストな固体型太陽電池作製が可能であることを確認できた。しかし、現状では形成された非常に微細な孔に固体伝導材料を満たすことが困難で、低いエネルギー変換効率にとどまっており、表面との接合において、いかにして大きな接触面積を確保するかが今後の課題となった。
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