濃度が異なる銅、硫黄、燐、および、錫を含有する低炭素鋼を、種々の方法および速度で凝固させて試料を作製し、それらが組織、硫化物のサイズと分布、ミクロ組織、機械的性質に及ぼす効果を、光学顕微鏡、SEM、TEMでの観察と引張り試験で調査した。また、硫化銅を含む場合と含まない場合について、燐と錫のミクロ偏析をEPMAで調査した。 固体状態でのδ/γ変態、γ/α変態、および、それらの変態中および冷却中における硫化物析出の挙動を、各種の燐濃度の低炭素鋼表面につき、異なる冷却速度の下でレーザー顕微鏡(CSLM)でその場観察した。燐と冷却速度が相変態と硫化物析出に及ぼす影響を実験結果と数学モデルに基づいて検討した結果、以下のことが明らかになった。 異なる形態の4種の硫化銅、すなわち、酸化物と硫化物の複合介在物(OS)、平板状硫化銅(PS)、介在物を取り囲む球殻状硫化銅(SS)、および、ナノスケール硫化銅(NS)が見出された。OS型の介在物は溶融したMn珪酸塩の介在物として最初に溶融鋼の中に形成され、凝固中に珪酸塩中の硫化物として成長する。PSは基地のγ鉄から平板状に析出したと考えられる。SSは低温域で、前もってできていたMnSまたはCu_<2-x>S系の介在物上に析出したと考えられる。NSは、γ鉄の下部の温度域、ことにα鉄域で、極度の過飽和、かつ、拡散係数が小さいために、非常に微細な粒子として析出したと考えられる。 燐を添加すると銅を含む低炭素鋼の高温域での硫化物析出が遅れ、硫黄の過飽和が増し、低温ではより銅の含有量が多く、より微細である硫化物が生成することがわかった。燐はまた、γ鉄中に代わって、α鉄中での硫化物析出を促進するため、急速冷却したときには、平板状の硫化銅に代わって、球状の細かい硫化銅が析出ことになることが判明した。同様に、他の因子の効果についても検討した。
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