研究課題
神経回路網形成の基盤は発生期において、多様な機能をもつ神経細胞の個性の獲得とそれに続く細胞移動や軸索伸長が適切に行われることにある。そのため神経細胞・グリア細胞を生み出す分子メカニズムや回路網形成機構の解明は、神経発生学の大きな課題の一つとなる。本研究では、bHLH型転写因子Olig3の解析を通して、中枢神経系の細胞の運命決定、回路網形成機構を解明することを目的とする。Olig3は発生期の神経管背側部に発現するが、その細胞系譜、移動様式についての知見は乏しい(Takebayashi et al.,Mech.Dev.113 2002)。そこで、我々はOlig3-lacZノックインマウスを作製した(Ding et al.,Dev.Dyn.2005)。このマウスではOlig3細胞の系譜や挙動を短期間追跡することができ、胎生10.5では神経管背側部でのみ観察されるOlig3陽性細胞が、X-gal染色により、同時期に腹側にまで広くみられた。このことから、Olig3系譜細胞は、脊髄発生初期に腹側方向へ移動することが示された。また、Olig3系譜細胞の多くは様々なマーカー分子の発現から介在ニューロンに分化し、さらに一部は背側正中部のアストログリアに分化することを示した。次にOlig3-lacZノックインマウスと神経管腹側正中部に発現し、軸索の伸長をガイドするnetrin-1の欠損マウスとを交配することにより、Olig3系譜細胞の移動がnetrin-1により制御されるかを検討した。その結果、netrin-1欠損マウスではほとんどの細胞が腹側方向へ移動することなく、背側部にとどまることを見出した。このことからnetrin-1がOlig3系譜細胞の腹側方向への移動に誘因的に作用することが示唆された。今後はOlig3欠損マウスの解析、Olig3-Creマウスの作製を行い、Olig3の機能、細胞系譜をより詳細に検討していきたい。
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Dev.Dynamics 234
ページ: 622-632
Neurosci.Lett. 374
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Dev.Biol (In press)