研究概要 |
海藻類は陸上植物などと比べて一般に形態が単純であるが,イソガワラ目藻類(Ralfsiales)はその中でも単純な殻状の形状をしているため,採集にも大きな労力を必要とするほか,形態学的に利用できる形質がきわめて限られている。このため,これまでイソガワラ類を対象として行われた研究は海藻分類学の研究者の比較的多い日本や欧米でも少なく,南アジア海域では本格的な調査はほとんど行われていない。本研究では,日本沿岸および東南アジア各地の沿岸において殻状褐藻イソガワラ類の標本を採集し,形態による観察を行うとともに分子系統学的な解析を行った。 葉緑体コードのrbcL遺伝子の塩基配列に基づく系統解析の結果は,イソガワラ目単系統群ではないこと,そして3つの主要なクレードに分かれることを示した。クレード1:Ralfsiaceae, Mesosporaceae, Analipas japonicus, Heteroralfsia saxicolaから成る。クレード2:Lithodermataceaeに相当し,狭義のシオミドロ目と最も近縁である。クレード3:Diplura属藻類からなり,イシゲ目と姉妹群を形成する。このうち,イソガワラ属のタイプ種を含むクレード1が真のイソガワラ目に相当すると考えられる。これらの結果に基づき,Nakamura (1972)によって記載されたイソガワラ目の特徴の修正を提案した。加えて,またこれまでRalfsia属に含まれていたが,系統上遠いことが示された系統群について新属Neoralfsiaの設立とそれに伴った新科Neoralfsiaceaeの設立を提案した。また以下の種類のマレーシアおよびタイでの生育が初めて確認された(Ralfsia expansa, Mesopsora schimiditii, Petroderma sp., Pseudolithoderma sp.)。
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