本研究はオルガネラゲノムを遺伝的に改変することにより、新しい機能を有する花卉植物を作出することを目的としている。そのために葉緑体ゲノムの遺伝子組換えおよび細胞融合によるオルガネラゲノムの新しい組合せの作出を行おうとする。 本年度は、すでに得られているタバコの葉緑体形質転換植物とペチュニアとの間の体細胞雑種作出、および細胞質雄性不稔性の作用機作の解明を目的として実験を行った。まず、葉緑体にヒト由来の遺伝子を持つタバコとペチュニアのプロトプラストを単離し、両者の間で細胞融合を行った後に細胞を培養した。その結果、プロトプラスト由来カルスの60%以上から、シュートの再分化が観察された。現在までのところ、これらの再分化個体が体細胞雑種であることは確認されていないが、タバコを用いた細胞融合において極めて効率的な再分化系が確立された。この再分化系を基礎として、タバコプロトプラストの分裂を阻害すると共に、形質転換したタバコの葉緑体のみがペチュニアに導入された植物を効率的に得る方法が検討された。 一方、雄性不稔性と可稔性のダイコンを用いて花粉の発達過程の組織学的な観察を行った。その結果、雄性不稔個体において、減数分裂後の小胞子形成段階で特異的にタペート細胞の多核化が観察され、雄性不稔性発現の原因を明らかにする端緒が得られた。そこで、ミトコンドリアの雄性不稔遺伝子と核の稔性回復遺伝子とを種々の組合せで持つ個体について、葯の発達段階ごとに発現する遺伝子の差を検出する作業を開始した。
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