研究概要 |
胸腺は骨髄からやってきた前駆細胞がTリンパ球に増殖・分化する免疫系における中枢的な役割を果たす臓器である。胸腺で自己のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子に反応できるT細胞レセプター(TCR)をもったT細胞として成熟し、末梢に動員される。また自己の成分に対して反応性を示すTCRをもったT細胞は胸腺で除かれると考えられている。このようなTリンパ球の増殖・分化を支えているのが胸腺に存在するストローマ細胞である胸腺上皮細胞や樹状細胞やマクロファージである。とりわけ胸腺上皮細胞の役割は重要である。しかしながら胸腺上皮細胞にはどのような形態学的特徴をもった細胞がいるのかとか、再生しているのかとか、再生しているとするとその幹細胞とはどのような細胞なのかなどについてはよくわかっていない。本申請では申請者らがラットの胸腺上皮細胞の電顕形態学的特徴やMHC分子の発現の免疫電子顕微鏡学的解析の実績をもとにこれらの点の究明を行うことを試みた。方法はいろいろな分子に対して反応する抗体を用い、ラットに8Gyの放射線を照射したあとに再生してくると思われる胸腺上皮細胞についてその細胞の形態学的変化やいろいろな分子に対して反応する抗体を用いて免疫電子顕微鏡学的手法を用いて解析した。C-kit, p63,FTS(胸腺液性因子),UB-13(当講座で作製した胸腺上皮細胞に対するモノクローナル抗体)などについて解析した。放射線照射後にはpale型の上皮亜群(正常時最も頻度が高く、胸腺細胞との間で細胞間相互作用を行うと考えられている細胞)の数が減り、intermediate型の上皮亜群の数が増えることを確認しているが、この細胞が幹細胞と関係があるかもしれないと考えている。また照射後に被膜下を中心に増えるp63陽性の細胞が幹細胞と関係があると考えている。これらの結果をまとめて論文を投稿中である。
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