鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)腹腔内投与によるラット腎発がんは、がんの悪性度が高い、発がんの過程で鉄の触媒作用を介したフリーラジカルによる組織障害を伴っていることに特徴を有する酸化ストレス発がんモデルである。ヒトの発がん過程においても酸化ストレスが多面的に関わっていると考えられることより、この発がんモデルの詳細な解析を行った。まず、Fischer344系統とBrown-Norway系統のラットをかけあわせF1動物を作成した。そのF1動物の雄のみにFe-NTAを腹腔内に3ヶ月に渡り投与し、その後1年以上経過観察することにより、50例以上を腎臓癌を収集することに成功した。これまでのマイクロサテライト解析により、ラット染色体5番と8番にアレル損失が多いことが判明していたため、今回は染色体8番について解析を進めた。今回使用した2つの系統でpolymorphicな34のマイクロサテライトマーカーを使用して、22の腫瘍についてアレル損失の解析を行った。polymorphicな部位を選択しているので、PCR後のアガロースゲル電気泳動で正常では2本の同じ濃さのバンドが見られるはずであるが、アレル損失があるとバンドが基本的に1本になる。染色体8番全体に高いアレル損失を認めたが、その中でも70%を越える高率の部位に関して、腎癌のcDNAマイクロアレイ解析による発見が有意に減少する遺伝子を検索した。現在、このスクリーニングにより得られたがん抑制遺伝子候補のいくつかについて、リアルタイムPCRによる発現の確認作業を行っている。これは独立して、細胞内の二大還元系のひとつであるチオレドキシンと結合する蛋白として取られてきたThioredoxin-binding protein-2が、この腎癌においてそのプロモーター領域のメチル化により発現がほぼ完全に抑制されており、それが細胞増殖と関連していることが明らかになった。
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