レニン・アンジオテンシンシステム(RA系)の障害は、高血圧性腎不全および鬱血心不全の病態生理学に深く関わっている。また、RA系は、凝固線溶システムおよび組織の繊維化において重要な役割を果たすplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)を誘導する。本研究では、RA系の亢進が腎臓の固有細胞に与える影響をPAI-1に注目して検討し、更に高血圧腎障害動物モデルを用いて腎障害におけるPAI-1の役割を検討し、高血圧性腎疾患の発症機序を分子レベルで解明し、それに基づく合理的かつ革新的治療法に向けての研究を行うことを目的とする。 不死化したラット尿細管細胞株(IRPTC)及びマウスメサンギウムアンジオテンシンIIレセプター1のwild typeとknockout type細胞を培養していた。Angiotensin II receptor blocker(ARB)の一つであるtelmisartanを上記細胞培養液に投与し、24時間後蛍光プローブCM2DCFH-DAで標識し、フローサイトメトリー(FACScan)及び蛍光microplate readerにより測定した。Ang IIの投与により細胞内過酸化物の増加が見られた一方、knockoutメサンギウム細胞内過酸化物の増加は見られなかった。よって、angiotensin IIに誘導される酸化ストレスのレセプター依存性とドーズ依存性が認められた。更に、細胞内PAI-1、酸化酵素catalase、glutathione peroxidaseの遺伝子の発現は、real-time PCR法より調べた。Angiotensin II及び外因性H_2O_2により誘導された酸化ストレスとPAI-1 mRNA発現の増加が、wild typeとknockout細胞のいずれもtelmisartanの投与により抑制された。以上telmisartanの作用はアンジオテンシン・レセプターの非依存性を強く認めた。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法よりtelmisartanの細胞内濃度を測定し、高い脂溶性を持つことを実証した。また、angiotensin II持続投与高血圧腎障害ラットを作製し、ARB及び開発中のPAI-1阻害剤Aの投与により、腎障害の各指標は明らかに改善されたことを認めた。 結論として、酸化ストレスの改善とPAI-1発現の阻害は高血圧腎障害疾患の治療に重要な機転だと示唆された。
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