研究課題
日本から南極大陸のまでの太平洋・南大洋・南極海洋上で採取した海洋エアロゾル26試料から低分子ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ジカルボニルを分離・誘導体化の後、ガスクロマトグラフおよびGC/MSにて測定した。これら水溶性有機物の海洋大気中での空間分布を明らかにするとともに、ジカルボン酸の安定炭素同位体比を測定し、以下の研究成果を得た。すべての海洋エアロゾル中でシュウ酸が最も高い濃度で存在し、マロン酸、コハク酸がそれに続いた。低分子ジカルボン酸の濃度は東アジアに近い北太平洋とニュージーランドおよびオーストラリアに近い南大洋で高い濃度を示した。この結果は、水溶性有機物が陸上の人間活動や植生に起源があることを意味している。一方、南極海ではきわめて低い濃度を示すことがわかった、バックグラウンド濃度に相当することを提案した。エアロゾル中の全炭素に占めるジカルボン酸炭素の割合は0.6-14%の間で変動したが、北太平洋で高い値を南大洋で低い値を示した。データの主成分分析(PCA)をしたところ、これらジカルボン酸の分布は3つの因子、すなわち、(1)光化学反応による生成、(2)陸のソースからの長距離大気輸送、(3)より大きな有機物の光化学的変質で説明されることがわかった。さらに、ジカルボン酸などの安定炭素同位体比を測定した結果、それらは大きな変動を示すとともに緯度的な特徴を示すことがわかった。たとえば、シュウ酸の安定炭素同位体比は赤道などより低緯度で重い傾向を中緯度で軽い傾向を示した。この結果は、光化学的変質の結果、水溶性有機物は同位体的に重くなることを示唆し、ジカルボン酸の安定炭素同位体比が大気中での光化学的変質のトレーサーとして使える可能性を示した。また、ニュージーランドの二つの都市(オークランド、クライストチャーチ)で冬季に採取したエアロゾル試料中の有機炭素、黒色炭素、イオン成分を測定し、その分布の特徴をエネルギー使用の違いの観点(槙などバイオマスの燃焼と石油の違い)で議論した。その結果、冬季の暖房に槙を多用するクライストチャーチでは、有機炭素・黒色炭素の濃度が著しく高いことがわかった。
すべて 2004
すべて 雑誌論文 (6件)
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