研究概要 |
分子理論と計算方法の目ざましい発展とコンピュータの進歩により、理論化学は複雑な系の性質を高い信頼度で予測することができるようになり、新たな可能性が広がっている。しかし生体分子やナノサイズ分子に適用するにはいまだなお時間がかかりすぎるという悩みを抱えている。本研究の目的は、新しい理論やアルゴリズム開発によって大規模分子系の量子化学計算を実現することにある。計算時間のボトルネックは莫大な数の2電子積分の計算にある。2電子積分計算、特にCoulomb積分の高速化を図る近似の1つにFast Multipole Method(FMM)がある。その1つであるPoint-charge fast multipole methodを利用し、chargeを古典的なpoint chargeと量子論的なquantum chargeに分類し、より高速なBranch-free FMM(BFMM)を開発した。BFMM近似のプログラムを作成して数100原子系で予備的計算を行ってきたが、BFMMは系の大きさにほぼ比例して計算時間が増加する(Linear scaling, Order N法)きわめて効率的なアルゴリズムであることが数値計算より実証された。密度汎関数法(DFT)の高速化を実現化するため、現在DaltonおよびUTChemプログラムパッケージにBFMMを組み込んでいる。完成の暁には数1000原子系の理論計算がroutineで行えるようになるものと期待している。これまでの研究をまとめ、J.Chem.Phys.に投稿している。 "Development and assessment of extent definitions for the multipole-accelerated calculation of two-electron integrals", M.A.Watson and K.Hirao, J.Chem.Phys.2005 (submitted).
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